左もなくば切角の大国民も近き将来に於て悉く大兄の如く胃病患者と相成る事と窃かに心痛罷りあり候…… いい音でしょう、あたし嬉しいわとちゃらちゃらちゃらちゃら続け様に鳴らす。 細君は恨めしい顔付をして、到底いらっしゃれませんかと聞く。 どうかしてあすこの所へ人間を下げて見たい、誰か来ないかしらと、四辺を見渡すと生憎誰も来ない。 首懸の松さと迷亭は領を縮める。 その上に日本の墨で吾輩は猫であると黒々とかいて、右の側に書を読むや躍るや猫の春一日という俳句さえ認められてある。 彼等はついに朝から晩まで巴理を探険した。 吾輩はぼたりと畳の上へ落ちる。 いい音でしょう、あたし嬉しいわとちゃらちゃらちゃらちゃら続け様に鳴らす。 今日は幸い時間もある、嚢中には四五枚の堵物もある。 あんな主人を持っている猫だから、どうせ野良猫さ、今度来たら少し叩いておやり叩いてやりますとも、三毛の病気になったのも全くあいつの御蔭に相違ございませんもの、きっと讐をとってやります 迷亭などとは大違いだと主人はアンドレア・デル・サルトと孔雀の舌とトチメンボーの復讐を一度にとる。 主人の手あぶりの角を見ると春慶塗りの巻煙草入れと並んで越智東風君を紹介致候水島寒月という名刺があるので、この客の名前も、寒月君の友人であるという事も知れた。 二時頃には御帰りになりますから、帰り次第すぐ上げますと云う返事である。